「とりあえずバタ足は終わったから今度は腕の練習だよ。見ててね」

正太郎はプールに顔を浸けて左、右、左、右と水を掻く

「こうやって腕を前に出して手のひらで水を後ろへ送ってまた前に持ってくるんだよ」

相変わらず一所懸命になって教える正太郎

「こうか?」

みくは正太郎の真似をする

「そう。あと息継ぎの時は腕が上がっている時にその腕の下からするんだよ」

「こうか?」

みくはすぐにやってのける

「やっぱりお姉ちゃんは飲み込みが早いね。まるで水を綿で吸うみたい」

「せやけどカナヅチなんやから何とも言えへんけどな」

「でももう少しで泳げるようになるよ。あとは手と足を上手に使えば良いだけだから」

「だったら競争して見よーや」

「競争?お姉ちゃんがやりたいなら良いけど」

「じゃあ、負けたら勝った人の命令を聞く事」

「分かったよ」

「それじゃ行くで。よーい、ドン」

正太郎とみくは自由形25m競争を始めた

始めの頃はみくがもたついていたがコツを掴むとかなりのスピードで追い上げてきた

「よっしゃ、勝ったで」

正太郎より2秒早く着いたみくは勝利宣言をする

「やっぱり凄いよ。負けた以上僕は何をすれば良いの?」

みくは勝ったときの事を考えてなかったのでちょっと困った

「え?なんにしよ・・・」

かなり困惑しているみく

「じゃあ、もうすぐお昼だからお弁当でも食べようよ。食べながら考えれば良いし」

「そやな」

二人はプールから上がって弁当を食べる事にした

すると向こうから一人の男がやってくる

「いやいやなかなか良いレースだったよ」

「何や、アンタ?」

「俺は赤蘭高校一年の清水正太郎。そして・・・アレ?何処行ったんだ、アイツ」

そう言って男は辺りを眺め始めた

そして見つけたらしい

「あそこで女の子達に絡んでいる男共を締め上げているのが白蘭高校一年の愛川恋(れん)だ」

二人がその方向を見ると確かに男三人に対し女の子が締め上げていた

「手伝った方がええんとちゃうか?」

「いや、その必要は無いみたいだよ」

正太郎(美甘)の言う通り遠くから清太郎が走って行き男達を次々とプールの中に放り込んで説教した

 

数分後、警備員に連れられて行く男達を背にこちらへと向かってきた

「正太郎、今から昼か?」

「うん」

「ん?お前も正太郎って名前なのか?」

「そうだよ。自己紹介が遅れたけど僕は白蘭高校一年の美甘正太郎。そしてお姉ちゃんが・・・」

「二年の柳木みくや」

「名字が違うから恋人か?」

恋人という言葉にみくが反応する

「違うよ。お姉ちゃんは遠い親戚で今は家で一緒に生活しているだけだよ」

正太郎(美甘※以下略)の言葉に凹むみく

「お二人さんこそ恋人同士でデートか?」

「いや生憎と頭脳派の人間は嫌いなんでね」

「『頭脳派』ってさっき男達締めてたのにか?」

清太郎の言葉に正太郎は何かを思い出す

「確か愛川さんは昔から白蘭では有名らしいよ。文武両道の鑑だって言われるくらいだし」

「そうなのか?」

「そのうえ正義感が強くある日他の女の子達から『私達のグループのリーダーになって下さい』って言われて断れずリーダーになったらしいよ」

「そんな事もあったわね・・・」

正太郎の話を聞きながら恋はそう言った

「で、オッサン誰?」

「誰とは何だ、誰とは!」

「まぁまぁ、パパさん落ち着いて」

「フッ、良く聞け小僧。俺の名前は美甘清太郎。美甘神社の神主だ」

「そうか、アンタが神主さんか。確か『アークファイター』ではかなりの強者だと聞いている」

「そうか?俺も人気者になったもんだな」

「赤蘭地区では結構有名ですよ。でも四天王の登場によってあまり目立たなくなってきているのは事実ですが」

そう言って清太郎と清水は話し込んでいる

なにやら楽しそうなので気になったみくは正太郎に聞く

「正太郎、『アークファイター』って何や?」

「格闘ゲームの一種だよ。グラフィック、シナリオ、サウンド、システム全ての面に置いて最も人気があるゲームで現在では幅広い分野で活躍している」

「そうなんか?」

「確か秋からはアニメにもなるらしいよ」

「おもろいんか?」

「うーん、僕はあまり格闘ゲームはしないから分からないけど家にお父さんが買ったゲームがあるからやってみれば分かると思うよ」

「じゃあ、やってみるわ」

みくの話が一区切りしたあと恋が言った

「あの、美甘君」

「何ですか?」

「さっきの話ですが『リーダーになった』って誰から聞いたんですか?その話は殆どの人が知らないハズですし」

「その話なら先月商店街を歩いている時に不良に囲まれて困っていた時に助けてくれた雷衣って名前の女の子から聞いたんだよ」

「そうだったんですか」

「それで最近この町にある4つの地区が同盟を結んで良い環境になったって話も聞いたよ。『これも全てお兄さまのおかげ』だって」

「確かに同盟を結んだ事によって良い方向に向かっているのは事実ですがその『お兄さま』と言うのがアイツだというのが納得できないのです」

恋が指さした先には清水が居た

「『お兄さま』って清水君の事だったんだ」

「雷衣が嘘を付くとは思えないけどあの男の言動からしてどうも考えにくいのです」

「うーん、人それぞれだと思うから良く分からないけど目を見る限り悪い人ではないと思うよ」

「そうですか」

そう言って恋は清水を見る

「だからアレは巫女服をベースに作られていてその参考資料に美甘神社へ写真を取りに行ったって聞いたんですよ」

「確かにうちの神社は鈴音ちゃんが居るから写真を取りに来る人もいるがそんな奴来てたかな〜」

未だにアークファイターの話で盛り上がっている

「やっぱり分からない」

恋がそう言ったあと急に静まりかえる一同

そして悲鳴

「キャー」

悲鳴をする方を見ると清太郎が監視していた50mプールの方で女性が溺れていた

「今行くで!」

そう言って一番に走っていったみく

「お父さん」

「おう」

清太郎と正太郎もあとから走って行く

「何だ!一体」

「私達も行きましょう」

清水と恋も後を追いかける

「てぃや」

みくはプールに飛び込み女性の方へ近づく

「大丈夫か?」

「はい。でもさっき何かが足を引っ張っていたんです」

「何やて!」

みくがそう言うとプールに渦が発生し始めた

「やはり居たのか」

清太郎は持っていた呪符を手に詠唱を始める

「今行くよ」

正太郎がプールに飛び込むと渦は収まっていく

「ん?そうか。アイツ今はしていないんだったな」

清太郎は詠唱を止め浮き輪を投げる

「これに捕まれ」

みくと女性は浮き輪に捕まり正太郎はそのままプールの底を調べていた

 

「どうもありがとうございました」

「いえ、仕事ですから。それよりも気を付けてお帰り下さい」

あれから30分後話を聞き女性が帰るのを見送る

見送ったあと清水が話し始める

「何か居たと言う事ですか?」

「その様だな。でも朝から監視していたけどそれらしい前兆は無かったけどな」

「何で突然現れたのでしょう」

「それは分からない。ま、あとで管理者に聞いてみるけどな」

「お父さん、僕達は帰ってここのプールの事調べてみるよ。何か情報があるかも知れないし」

「ああ、そうしてくれ」

「それじゃあ清水君、愛川さん。さようなら」

「ああ」

「さようなら」

正太郎とみくはさくらに電話で情報収集を頼み帰る事にした

「お姉ちゃん、大丈夫?」

「ウチは大丈夫やで」

「でもいくら泳げるようになったからってあまり無茶な事しちゃ駄目だよ」

「分かった」

「でも何か思い出しちゃった」

「何をや」

「昔ね、家で飼っていた猫のミケが川で流されている猫を見つけて助けようと思ったのかいきなり川に跳び込んだんだよ。

でもねミケも泳げなくて一緒に溺れて僕が飛び込んで助けたんだよ」

「へぇーそんな事があったんか」

みくは白々しく言った

「でもあの時のミケはメスだったけど何か格好良かったなー」

「そうか?」

「うん・・・あっでもお姉ちゃんとミケを一緒にしちゃ駄目だよね。御免なさい」

「いや、別にええよ。格好良かったんやろ?その猫」

「うん。お姉ちゃんにも見せたかったよ」

みくは何とも言えない顔をしていた

 

「ただいま」

「お兄ちゃんおかえり。調べ物なら纏まってるよ」

そう言ってさくらは正太郎に資料を渡す

「お姉ちゃん、ちよっと」

「何や?」

「僕はリビングにいるからね」

「分かった」

さくらに呼ばれてみくはさくらのPC部屋へ

「・・・で、どうだったの?」

「頑張って泳げるようになったで」

「いや、そうじゃなくてお兄ちゃんとの仲よ」

「うーん、どうやろ?」

「はぁ〜っ」

さくらは大きなため息をつく

「お姉ちゃん、今日プールに行ったのは泳げるようになる為じゃなくてお兄ちゃんと親密になる為じゃないの?」

「それはそうやけど・・・」

「だったら『ウチようわからんから手の動かし型正太郎が持って教えて』とか足つった振りして『正太郎助けて〜』とかしなかったの?」

「だって正太郎が真剣に教えてくれているのにふざけた真似なんか出来へんし・・・そういう性格ともちゃうし・・・難しいねん」

「・・・ま、それがお姉ちゃんの良いところだから仕方ないか」

「ごめんな」

「別に謝る必要は無いわよ。一所懸命やったのは認めるんだから」

「そか、ありがとな」

「でも泳げるようになったと言う事は『夏の甘い一時作戦』も失敗だから今度は『秋の学園祭作戦』に賭けるしかないわね」

「秋まで長いな〜」

「長いなら色々と作戦も練られるから今度こそ大丈夫よ」

「ホンマか?」

「大丈夫よ。・・・絶対」

「何か今の台詞、間があった気がするんやけど」

「大丈夫よ(多分)」

さくらは笑って誤魔化していた

「とりあえず正太郎トコに資料調べに行くわ」

みくは正太郎の元へと向かった